JAみな穂(富山県入善町)
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富山県入善町と朝日町を管轄する「JAみな穂」では移動販売車「あいさい号」を運行し、買い物支援事業を推進しています。「組合員サービス」というJAならではの視点によって、入善町からの補助も受けながら事業は運営されてきました。高齢化が加速する中で、運行ルートから外れている地域からの移動販売の要望も高まっています。自治体や企業、地域住民らと連携して、単独事業を横断的な取り組みに変換しようとしています。
JAみな穂の買い物支援事業は、地域福祉の中核を担う入善町社会福祉協議会から、地域の高齢者に対して何らかの買い物サービスを実施できないかという相談をきっかけに始まりました。初年度の2014年から5年間は、一人暮らしの高齢者や外出困難者のいる世帯を中心に商品を掲載したカタログを配布し、注文品を届けるスタイルでした。現在のような移動販売になったのは、商品を見て購入を決めたいという声が大きくなったからです。冷蔵商品へのリクエストも寄せられ、4年前からは専用車両「あいさい号」で販売を実施しています。
運行日の朝に「JAみな穂」を訪れると、 営農部営農企画課の八倉巻満寿美さんが「あいさい号」に荷物を積み込んでいました。隣接する直売所「あいさい広場」に生産者が持ち寄った新鮮な野菜、地元の商店が作る豆腐や漬物、調味料など、住民にとって馴染み深い味が多く積み込まれていきます。移動販売車は、精肉や刺し身、惣菜を置く冷蔵庫、日用品などを入れる棚などが取り付けられていて、効率よくたくさんの荷物を詰める設計です。八倉巻さんは「次に来るときに、アレを持ってきてほしいという声もちゃんと覚えておいて、それを次回持って行くようにしています」と話します。買い物支援事業の開始時から担当していることもあって、誰が何を買うか、どの季節に何を持っていけば満足してもらえるかが、すべて彼女の頭の中に入っています。別のスタッフも乗車し、2名体制で地域を巡っています。
運行は火〜木曜の週3日、決められた時間に合計24ヵ所を回ります。現在「あいさい号」が訪れるのは、カタログから移動販売に切り替わるタイミングで入善町社会福祉協議会が要望を募ったときに手を上げた地区で、町の中心部から離れた農村部や山際が主です。買い物客が1、2人しかいない地区もあります。営農部営農企画課の道又正幸課長は「例え人数が少なくても、誰一人取り残さないためには、予定通り訪れるのが大切です」と話します。
買い物支援事業には、商品を販売する以外の役割も見え始めてきました。ともすれば引きこもりがちになる高齢者に外出の機会を創出することで、体力づくりや気分転換につながっています。顔馴染みやご近所の人と顔を合わせることが、人や社会との接点になります。いつも買いに来るはずの人の姿がないときは、ほかの人が家まで見に行くことになり、安否確認のきっかけにもなっています。
西中公民館の敷地内での販売を見に行くと、お客さんは全員が後期高齢者でした。週末などは別の場所で暮らしている子や孫にスーパーに連れて行ってもらえますが、平日の買い物が困難な人が多いようです。80代の女性は「決まった曜日に来てもらえるので、スーパーに行かなくてすみます。待っている時間も、近所の人と話ができるから楽しいです」と言います。また70代の女性は「ほかのスーパーには売っていない気に入っているお茶があるので、持ってきてもらえてありがたいです」と教えてくれました。
2022年に道又課長が入善町社会福祉協議会の協議委員に就いてからは、同協議会とのやりとりがより密になり、事業での困りごとなどがないかという問い合わせが頻繁に来るようになりました。現在10地区の区長から、事業の対象を拡大して自分たちの地区へも移動販売に来てほしいという要望が同協議会へ寄せられていて、今後はさらに要望地域が増加することを予想しています。少し前までは想定していなかった町の中心部からの要望も上がっていて、交通手段を持たない高齢者の生活の不便さ解消のために、なんとか応えられないか考えているところです。
「昨年秋には入善町役場を通し、富山県内のスーパーが移動販売に力を入れるようになったという話も聞きました。今後は行政主体で話し合いの場を設け、実施状況を把握して、互いに行けない場所を補完するための協議をしていきたいです」と道又課長。買い物支援事業を、自治体や企業、地域住民らが連携・協働する横断的な事業に変換していくことで、誰一人取り残さない、高齢者を支えられる仕組みづくりができると考えています。
体系的な整備以外にも、事業で改善したい点が見つかりました。八倉巻さんが運行を推進してきたことで、地域の高齢者の情報や販売商品の傾向を、ほかの職員が把握できていないことです。「つい最近、八倉巻さんが1週間休暇を取ったときに、ほかの職員だけでの対応が予想以上に大変だった」と道又課長は話します。同じような事態に備え、誰もが同一の業務を推進するための共有メモづくりも始まりました。
道又課長は「地域の高齢者に喜んでもらったり交流の場の提供を担ったりする機会は、JAではそれほどないことです。一般企業であれば利益が出ない事業の継続はありませんが、私たちは組合員さんへのサービスを重視しており、収益を求めずに実施しているから継続して来られました」と語ります。
パートナーシップや連携・協働によって、地域づくりをする時代になりました。買い物支援事業を、高齢者を包括的に支える地域全体の仕組みへと発展させることが、明るい未来への一翼を担います。