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電気の力で、新時代の農業を変える
2023/1/11

電気の力で、新時代の農業を変える

フレデリッシュ(福井県敦賀市)

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農業を取り巻く課題に、3社連携で挑む

 福井県敦賀市にある株式会社フレデリッシュは、完全人工光型の植物工場です。北陸電力株式会社(本店:富山県富山市)と株式会社大気社(本社:東京都新宿区)、農林中央金庫(本社:東京都千代田区)の共同出資によって、2021年3月に設立されました。現代の日本の農業は、高齢化による担い手不足、異常気象による生育不良や生産量の落ち込み、化学肥料を使うことでの環境負荷など多くの課題に直面しています。出資企業は、電気の力、植物工場設備のノウハウ、園芸農業振興を通じた地域貢献というそれぞれが持つ強みや知見を活かし、安定した野菜の供給、そして持続可能な地域社会の実現に向けて取り組んでいます。

植物工場で2種類のレタスを安定的に生産

 フレデリッシュは、福井県敦賀市の国道27号線のそばで植物工場事業を展開しています。周囲に外食チェーンやコンビニエンスストアなどが並ぶ市街地で、従来型農地のイメージとは違った場所です。出資比率の61%は北陸電力で、電気の新たな価値創出を目指す同社にとって、保有資源の利用と大気社の技術を融合した新サービスは、開拓分野であると同時に、地域課題の解決、地域貢献への取り組みを具現化した事業でもあります。
 プラント設備や栽培ノウハウは、大気社が開発した「ベジファクトリー」というシステムです。フレデリッシュ生産技術課長の町田龍亮さんは「もともと北陸電力では電力プラント運営を行っており、私も原子力業務に携わっていました。電気の力を使ったプラントの運営という点では共通しています」と、電力会社と完全人工光型の植物工場の親和性の高さを紹介してくれました。工場では温度や湿度をコントロールした環境で、高出力・高効率LED照明を照射して「グリーンリーフ」と「フリルレタス」の2種類を安定的に生産しています。

水力発電由来の電力で育った、ゼロカーボン・レタス

 工場内は、100%北陸電力から調達した水力発電由来の再生可能エネルギー電力を使用しています。北陸電力の電源構成は水力発電が3割を占め、旧一般電気事業者の中では全国トップです。その特性を活かし、フレデリッシュでは神通川第一ダム(富山)の水力発電で生み出された電気でレタスを育成しています。水力発電は発電時に二酸化炭素を排出しないことから、出荷するレタスは「ゼロカーボン・レタス」と名付けられました。

 また2022年には世界基準の農業認証である「グローバルGAP」を取得しました。これは食品安全や労働環境、環境保全に配慮した持続的な生産活動を実践する優良企業に与えられる世界共通のブランド認証です。「グローバルGAPの認証取得は、仲卸業者からの要望でもありました。これによってグローバル企業との取引ができるようになり顧客の幅が広がります」と町田課長。強みを発信し、全国的に参入が増えている同業者との違いを明確にしながら、ブランド力アップを図っています。農林中央金庫富山支店北陸営業班融資主任の藤巻龍成さんも「私たちは第一次産業の発展に貢献するという使命を持っています。全国のネットワークを活かして、魅力あるレタスの販路の拡大を支援しています」と話します。

夜間に二酸化炭素濃度を高め、成長を増進させる

 2種類のレタスは工場で種を播き、芽が出るとLEDを照射させます。生育のための栄養供給は養液を使っていて、育苗棚を循環するとタンクに戻り、足りない栄養素が補充され、再び栽培室を流れる仕組みです。LEDが照射される時間は、17時半から翌日8時半にかけて。夜間に照射するのには理由があり、ひとつは電気代が安くなる夜間電力を使用しているからです。もうひとつは栽培室内の二酸化炭素の濃度を高めてレタスの成長を促しているためで、植物が成長するための必須原料である二酸化炭素の濃度を上昇させ、光合成の速度を増進させています。露地栽培にはできない植物工場ならではのやり方です。二酸化炭素の濃度は人の健康に影響のない程度ですが、日中に従業員が安心して働くためにも、このサイクルが工場運営に相応しいと考えています。

 工場とはいっても人力に頼る部分も多く、育苗パネルの移し替え、収穫、袋詰めは従業員が担います。収穫の様子を見せてもらうと、育苗棚からパネルを取り出しレタスに水が付かないように根を切っていました。工場内での水耕栽培という栽培設備はもちろん、虫侵入防止策や衛生管理も徹底することで、フレデリッシュのレタスには生菌数が少ないという特徴があります。洗う手間を省けるので、外食産業からの需要が大半を占めています。また鮮度が長持ちするので、国産野菜の消費拡大や食品ロスの削減へもつながっています。

発展的なアクションを起こし続ける

 植物工場は、農業経験がなくてもノウハウ通りに運営すれば野菜が育ちます。しかし工業製品とは違い、農業であると感じる部分も多くあります。町田課長は「マニュアル通りにやっていればレタスは作れますが、これまでの経験で苗の位置で照射量にばらつきがあったり外気温に影響を受けたりすることで、生育にばらつきが出ることが分かりました。経験で補える部分もありますが、データを取りながら一層の生産安定化を図らねばなりません」と話します。また顧客のリクエストに対応しながら、多品目栽培も視野に入れ、試験栽培に乗り出している野菜もあります。藤巻主任も「農林中央金庫の用務の幅を活かして、地域活性化、地方創生につながる非金融面のサポートを強めていきたいです」と意気込みます。

「植物工場だけでなく、農業分野で電力会社の力を発揮できる部分はこれからたくさん出てくると思っていますし、電気を使って未来の農業がもっと楽になってほしいです」と町田課長。共同出資の植物工場での発展的なアクションが、持続可能な地域づくりにつながっています。

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