(富山県氷見市)
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氷見稲積梅は富山県固有種の梅で、国内の梅で初めて地理的表示(GI)保護制度に登録されました。かつては4、5軒の農家が庭先で販売するだけでしたが、2001年に特産氷見稲積梅生産組合、2011年に氷見稲積梅株式会社が設立され、現在は6次産業化やファンづくりに積極的に取り組んでいます。生産量の拡大や後継者の育成などを目指すなか、農林中央金庫が農協観光株式会社によるJA援農支援隊の受入を提案。活動意義やこれまでの活動実績、実施する場合には富山県内にとどめず、全国規模の募集とし、知名度向上も図ることなど、取り組みの目的を当社ともしっかり認識合わせをした結果、2023年6〜7月に富山県下初のJA援農支援隊の受け入れが実現しました。農林中央金庫の職員を中心に、総勢18名が収穫などの農作業を体験しました。
●参加者
氷見稲積梅株式会社代表取締役社長 西塚 信司氏
富山県高岡農林振興センター 主幹・担い手支援課長 島 嘉輝氏
農林中央金庫本店 副部長 太田 明宏氏
農林中央金庫本店 八田羽 可菜氏
農林中央金庫本店 田島 佑一郎氏
農林中央金庫富山支店 中田 圭亮氏
農林中央金庫富山支店 土田 隼嗣氏
株式会社 大広北陸 森 亮平氏
(氷見稲積梅株式会社顧問 長澤誠尚氏)
氷見稲積梅の収穫は、6〜7月にかけての2週間が勝負です。収量の約30トンは、すべて手摘み。氷見稲積梅株式会社の西塚信司社長は「近くの親戚や知人、友人のほか、同じ氷見でさつまいもを栽培している速川活性化協議会のメンバー、地域おこし協力隊の方などにお願いして人手を確保し、何とか収穫をしています。過去には人手が足りず、熟した梅が落ちてしまった年もあり、近隣の人から『どうなっているのか』と連絡を受けたこともありました」と、収穫期の人手不足の悩みを口にします。そのためJA援農支援隊の話を聞いたときは、本当にありがたく、大歓迎なことをすぐに伝えました。
JA援農支援隊の参加者は20〜30代の若い世代が中心で、農林中央金庫本店(東京)や富山支店のほかに、地方支店から活動に訪れた従業員もいます。また今回は富山の企業からの参加者もいました。梅を食べる習慣を持つ年代の高齢化が進んでいることもあり、老若男女を問わずファンを作ることが氷見稲積梅の喫緊の課題です。「参加してくれた皆さんは、氷見稲積梅のファンになってくださる。東京や地元に戻って氷見のことや梅について話してもらうだけで、関係人口の増加になります」と西塚社長は笑顔を見せます。
JA援農支援隊に参加する狙いについて、農林中央金庫本店の太田副部長は「生産者の皆さんが一番お忙しい時期に農作業のお手伝いをすることが目的ですが、それは一義的なものです。大げさかもしれませんが、結果的に氷見に人を呼び込むことを目指しています」と語ります。農林中央金庫は国内外に3,000名以上の従業員がいますが、日本の農林水産業に貢献するという業務であり、この活動に参加する以前は農業の現場を知る機会はほとんどありませんでした。「今まで通りの業務を行っているだけでは存在意義を認めて貰えない時代になっており、地域活性化、地域創生の伴走者として、一緒に地方を盛り上げる存在にならなければいけません」と太田副部長。
全国施策であるJA援農支援隊を富山県で展開するために尽力したのが、富山支店の中田さんです。「過去に何度か援農支援隊に参加していますが、そこが『第二の故郷』になるような感覚でした。活動から帰ってからも、ずっとその土地や農作物のことが頭の片隅にあり、スーパーで商品を見かけた瞬間やテレビで目にしたときなど、援農支援隊での一幕を思い出します」と中田さんは言い、参加者に第二の故郷だと思えるような企画を考えました。
JA援農支援隊の受け入れを依頼したのは、農林中央金庫富山支店が農業者の所得向上を目的にした「担い手コンサルティング」事業を実施していることも理由でした。富山支店の土田さんは「過疎化や農家の高齢化といった背景がある中で、労働力不足の対策として、援農支援隊の活用実施を決めました」と依頼に至った経緯を説明します。
氷見稲積梅は、人にも環境にもやさしい特別栽培により育てられており、果肉が厚く、種が小さいのが特徴です。氷見稲積梅株式会社の長澤顧問は、地理的表示(GI)登録に力を尽くしました。 GI保護制度は地域で長く育まれた特別な生産方法で、高い品質や評価を獲得している農林水産物の名称を生産地や特性とともに国に登録し、知的財産として保護するものです。4年もの歳月をかけた農林水産省や農政局とのやりとりを助けてくれたのが、富山県高岡農林振興センターでした。同センターの島 嘉輝主幹・担い手支援課長は「GI登録に至るまで、センターでも約10人が資料や調書づくりに携わりました。氷見稲積梅にとっての財産になる、世界に通じる、伸び代がある認定です。私たちは生産技術や6次産業化などの面で、今後も支援し続けたいと思っています」と話します。西塚社長もセンターを頼りにしており、梅の木が病気になるなどしたときは、連絡すると果樹担当者が駆けつけてくれます。
JA援農支援隊に参加した農林中央金庫本店の八田羽さんは「採れたての完熟梅を食べたときの美味しさが忘れられません。氷見は人が温かく、人と人のつながりを感じる場所です」と言います。また同本店の田島さんも「地域の人、地域おこし協力隊の方々などが協力しながら収穫が成り立っていることに感動しました。海産物のイメージが強い土地だったので、梅の生産が盛んなことにも驚いています」と話します。また今回、第三者として参加した大広北陸の森亮平さんは「第一次産業の課題は知識としては理解していましたが、現場を知ったことでさらに多くの課題が見えてきました。作業を終えた後に参加者同士で、もっとこう取り組んだら良いというアイデアを出し合うこともでき、とてもクリエイティブな取り組みだと感じています」と感想を述べました。農林中央金庫の太田副部長は「西塚社長の情熱に触れ、自分たちの関係人口の増やし方の自信にもなりました。今、農林中央金庫の奥和登理事長が、援農支援活動を財界へトップセールスしていまして、親密な取引先である証券会社と合同で参加する回もあります。他のビジネスパートナー企業からも『どのように活動しているのか知りたい』と関心を示す先が増えていますし、少しずつ裾野が広がっていますので、活動にはポテンシャルを感じています」と語ります。
現在、氷見稲積梅は生産量に対しての販売先が安定しており、営業活動に飛び回る必要はなくなりました。しかし3年先、5年先に需要が伸びたり担い手が増えたりすることを考え、InstagramやFacebook、LINEを使って情報の発信を始めるなど、若い世代のファン獲得にも余念がありません。西塚社長は「今年も20トンの梅を漬け終えて、ひと安心しているところです。これからもチャレンジ精神を持ち続けたいですね」と前を向きます。