つながる・はじまる・ひろがる KITOKITO

多様なステークホルダーが学びを支える
2023/12/14

多様なステークホルダーが学びを支える

片山学園初等科(富山県射水市)

関連するSDGs

 片山学園初等科では、これからの時代を生き抜くために必要な知識や思考力を身に付け、社会で活躍する人づくりをすることを目的に、企業や団体の垣根を越え、産学官金のプロフェッショナルが「Agrication&Fincationプロジェクト〜目指すのは、人つくり。〜」の授業を行っています。慣習にとらわれない手法で、金融と農業を多面的に伝える授業は、6年次が近づき内容がより深化してきました。地域のステークホルダーによって支えられている授業の姿をレポートします。

●参加者
農林水産省北陸農政局企画調整室 企画官 亀喜 正氏
日の出屋製菓産業株式会社 代表取締役社長 川合 洋平氏
名古屋学芸大学 メディア造形学部 デザイン学科 宇佐見 百加氏
名古屋学芸大学 メディア造形学部 デザイン学科 久野 槙也氏
名古屋学芸大学 メディア造形学部 デザイン学科 野尻 雪乃氏
名古屋学芸大学 メディア造形学部 デザイン学科 阿田 朱莉那氏
いみず野農業協同組合 常務理事 廣田 一也氏
片山学園初等科 校長 原本 幸一氏
プロジェクトマネージャー JAバンク富山 中田 圭亮氏

クイズを交え、国家プロジェクトを学ぶ

 2023年12月に、農林水産省が策定している「みどりの食料システム戦略」についての理解を深める授業が実施されました。教壇に立った北陸農政局企画調整室の亀喜正企画官が、選択クイズなどの楽しみを交えながら日本の農業の現状と課題を伝えていきます。その様子に児童たちは興味津々でした。

 「今の時代は、農家であっても子どもに手伝いをさせなかったり農業経営を組織化していたりと、子どもが農業に触れる機会がありません。このような状態の中で『みどりの食料システム戦略』についての話に子どもたちはとても関心を持ってくれました。大変素晴らしい授業が行われています」と言って、亀喜企画官はプロジェクトを評価します。またこの日の授業で環境課題として伝えた二酸化炭素の削減の取組みについては「今の大人は大量生産・大量消費・大量廃棄の時代に育ってきています。子どもたちの発信や発想で世の中を変えていけば、大人の行動を変えるきっかけになるはずです」と話します。
 地球温暖化によって日本の平均気温が上昇を続けており、農作物の品種改良が進められていることを教わった場面では、自分たちが4年次に水田で栽培・収穫した「富富富」が、近年の環境の変化に対応したお米であることも再確認していました。

富山の農業を守る企業の取組みを知る

 「みどりの食料システム戦略」の授業の中では、有機栽培に取り組んでいる富山県内企業として日の出屋製菓産業株式会社の川合洋平代表取締役社長も会社の事業内容を伝えました。「これまでにも授業する機会がありましたが、興味や関心を持って話を聞いてくれる子どもたちの姿を見ていると、日本の未来が明るいと感じます。環境に配慮している有機栽培のお米を使って付加価値のある商品を開発し、富山のお米のよさを国内外に発信している企業の在り方を、子どもたちに伝えられることは大変ありがたいです」と川合代表取締役社長は話します。同社は2024年に100周年を迎えるにあたり、地域とのつながりをより強固なものにしながら、豊かな自然や環境を守り、持続可能な地域を目指したいと考えています。そんな思いを持ちながら授業に参加できたことに、大きな手応えを感じていました。

ゲームで農業の多面的な課題に触れる

 授業の後半では、名古屋学芸大学の4名が教壇に立ち、児童たちは「ノウカサバイバー」と名付けられたボードゲームを通じて農業を体験しました。ゲームは農林水産省東海農政局のアドバイスを受け開発しており、手持ちのカードを使って農機具や肥料などを手に入れられる一方で、環境の変化や戦争によって農業がダメージを受け損失が生まれることを、ゲームを通して学びます。
 ゲームの開発に携わった同大学生達は「子供たちにできる限り楽しみながら学んでほしいと考えていました。ですが、ボードゲームの楽しさやゲーム性ばかりを強くすると、授業を通して本当に伝えなくてはいけないことが置き去りになってしまいます。環境問題や戦争など、現実の課題を盛り込むことで、ゲームを通して子どもたちに悩んでほしいと考えていました」と語ります。授業では、ゲームをしながら環境とお金のどちらを優先するかを悩む姿、災害が起きたことに悲鳴を上げる姿なども見られ、児童が農業の多面的な課題を知る機会になっていました。

スマート農業へ進む時代に、学ぶことに意義がある

 これまで授業を支えてきたJAいみず野の廣田一也常務理事にもお話を伺いました。廣田常務理事は、農業DXが推進されている時代に、児童が農業体験をすることに大きな意義を感じています。日本の農業はスマート農業が加速し、農機具を遠隔操作したり生育状況をデータで把握できたりする時代がやって来ます。「自分の手足を動かしてやってみるということが、学習の幅を広げるのに大事なことだと思います。行動の道筋を伝えながらやるのが理解につながると思い、私たちの授業では言葉で伝えることを大切にしてきました。省力化に向けた変革期に農業を学ぶことは、価値があるところも多いでしょう」と話します。

ステークホルダーと目指す価値のある授業

 「Agrication&Fincationプロジェクト〜目指すのは、人つくり。〜」は、4〜6年次をひとつのパッケージにしており、来年度は締めくくり、まとめの一年になります。この日の授業で「課題」という新たなキーワードが投げかけられ、児童はゲームを通して課題とはどんなものか学ぶことができました。

 片山学園初等科の原本幸一校長は「JAバンク富山をはじめ、皆様のご協力なしでは成り立たない授業です。尽力してくださる方々へ感謝し通しの2年間でした。今日の授業を見て、来年度は一層レベルアップした内容を伝えたくなりました。Fincation分野で伝えたいエッセンスを絞り込み、資産形成などを小学生レベルに落とし込んで学ぶ機会があればと思います」と話します。
 本プロジェクトによって、児童がほかの学校行事や授業の中でも、農業や金融を意識していることが伝わってくるようになってきているそうです。今は農業課題への気づきを促すことや、社会に目を向ける素地を身に付け、毎日の生活の中にも課題がたくさんあるということに気づけるような状態にすることが大切だと原本校長は考えています。

 プロジェクトを管理するJAバンク富山の中田さんは、人と人をつなげる、JAバンクにしかできないプロジェクトで将来を担う子どもたちに価値のある授業を届けることに情熱を注ぎます。

TOPに戻る