片山学園初等科(富山県射水市)
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片山学園初等科では、4年次から「Agrication&Fincationプロジェクト〜目指すのは、人つくり。〜」と名付けた、金融教育と食農教育を融合させた授業が行われています。自治体や関連団体、企業、大学生らの協力を得て、産学官連携で進められてきたプロジェクトは、10月に実施された「投資」をテーマにした座学とカードゲームの授業を最後に、6年生の児童を対象としたひと通りのプログラムが終了を迎えました。小学生に対する授業は、農林中央金庫富山支店にとっても前例や雛形があったわけではありません。3年間を振り返り、有識者が意見を交換しました。
【目次】
・10/10 資産運用の基本とシミュレーション(1回目授業)
・10/24 資産運用ゲーム「アセットモンスター」(2回目授業)
・10/24 プロジェクトを振り返る(有識者対談)
プロジェクトの最後を締めくくったのは「投資」をテーマにした2回の授業です。1回目の授業で教壇に立ったのは、昨年度まで同プロジェクトのリーダーを務め、現在は農林中金バリューインベストメンツ株式会社に在籍する中田圭亮氏。久しぶりの登場に、児童もうれしそうな様子。
授業では株式や債券、為替について説明が行われた後、4、5人のグループに分かれて、元本を300万円とした10年間の投資シミュレーションを行いました。金利や株式などの変動データは、実際の10年間のデータが利用され、グループごとに長期投資の過程における金融資産の変動を観察しながら運用を進めます。
座学とゲームを組み合わせた形式で授業が進められたこともあって、児童は楽しみながら投資にチャレンジできた様子。世界の情勢や景気の動向を知った上で、資産運用に戦略を立てる必要があることを理解していました。
授業を終え、中田氏は「児童たちの考える力が、4年次からの金融の授業を通して育まれていることが実感できました。投資を始めると経済ニュース、世界情勢に興味が持てます。投資の力が子どもたちの人生を豊かにすることを願っています」と語りました。
「投資」の2回目の授業は、グループに分かれてカードゲーム「アセットモンスター」に挑戦しました。「アセットモンスター」はSMBC日興証券と金融知力普及協会が作成したオリジナルのカードゲームで、楽しく遊びながら経済知識を習得できます。この日の授業を担当したのは、SMBC日興証券の皆さんです。ゲームの中では、円高や金融緩和、買いオペ、インフレなど、金融にまつわるいろんな出来事が起こります。それによって預金や株式、外貨、国債の価値がどのように変化するかを学びながら、どう運用すれば資産が増えるかや収益のマイナスを回避できるかを熱心に考えていました。
金融にまつわる7つの出来事を経て、最終的に資産合計額で勝敗も決められました。優勝したチームの児童は、危機を予測し「株式を預金に変えました」と話し、この声を聞いてSMBC日興証券の方々も驚いていた様子。金融資産を運用する投資の基本が、2回の授業を通して身につき始めているのを実感できる発言でした。
「投資」の授業後に、3年にわたる「Agrication&Fincationプロジェクト〜目指すのは、人つくり。〜」プロジェクトを振り返り、有識者が意見を交わしました。
●出席者
片山学園初等科校長 原本幸一氏
SMBC日興証券株式会社金融法人部長 北村源太氏
SMBC日興証券株式会社富山支店長 門之園勝久氏
農林中金バリューインベストメンツ株式会社 執行役員マーケティング&ブランドデザイン部長 長原正樹氏
農林中央金庫富山支店長 山道学氏
進行
農林中央金庫富山支店 吉田健一氏
原本校長は、資産形成という授業のゴールを、当初から思い描いていました。「金融教育について農林中央金庫さんに相談したのですが、打ち合わせの中で農業教育と組み合わせてみようという話になり、ワクワクしながら挑戦してきました。たくさんの人に支えられた3年間」と振り返ります。金融教育を実施したいと考えたのは、初等科創立前に日米の個人資産の使い道の差を知ったときでした。日本の20年後を想像したとき「国力や経済力が低下し、社会保障に対しての不安が大きくなることが考えられるため、自衛手段として資産形成を学ぶこと、金融トラブルにあわないために知識を深めることが大切だと思いました」と話します。
「今は完全に理解できなくても、何かの種として残って、次の学びにつなげられると思っています。児童にとってはどんなことも学びなので、この挑戦が翌年、翌々年の改善にもつながっていくと感じています」と前を向きます。小学生が第一次産業との接点を持ったことも、貴重な経験だったと感想を述べました。
長原部長は、高校生に対する金融教育の経験はありましたが、小学生に対する授業は今回が初めて。小学生への金融教育は若干早いのではないかと考えていたそうです。しかし2回の授業を間近で見て「想像とは全く違い、早すぎることはないと気付かされました。金融教育は単に用語や知識を植え付けるのではなくその本質や背景を理解する必要があり、『投資』の2回の授業を通してそれらをしっかり理解している子どもたちの姿に感心させられました」と感想を語ります。児童が投資に関する深いマインドセットを持っていることを授業の様子から知り、家庭でニュースを見ていたり家族と金融に関する対話がなされていたりすることを予想。「日本では家庭でフラットにお金の会話がされておらず、我々はこのような世界を変えたいと思っています。今後、投資はあなたの人生に寄り添うものになるということを家庭や学校で教えていくことは非常に大切ではないか」と話しました。
北村部長は、これまでの業務の中で小学生と関わることがなく、金融経済教育分野での連携は今回が初めてだったそうです。政府が掲げる「貯蓄から投資へ」のスローガンのもと、2014年に、NISA制度が導入されたことを受け、2015年に金融知力普及協会と協力し「アセットモンスター」を作成。今回の「投資」の授業にも使われました。「金融・経済・投資は、とっつきにくく、難しく思われがちなので、まずは遊びながら、楽しみながら興味を持ってもらうことが大切です。すぐに内容が理解できないとしても、ボードゲームで遊んでいるうちに、体感として残るものがあります。資産形成を考える年齢になったときに、ゲームを思い出して役立つことがあります」と言います。資産形成は、経験がない人ほど悩むそうで、授業でも制限時間の直前まで悩む児童を見て「リアリティがあった」とも。「すべての家庭で金融経済教育ができるわけではないので、我々のような金融機関が社会的使命としてこれまで蓄えてきたノウハウや知識を伝えられる場面があれば、結果として将来が見通しやすくなるお手伝いができると思っています」と話しました。
門之園支店長は、「富山県は全国的にも貯蓄率も持ち家率もトップクラスで、自分で働いて貯蓄することが得意な県民性があります。一方で、富山県に限らず、全国的に貯蓄を運用することには後ろ向きな傾向が、強いように感じています」と語ります。欧米では初めて受ける金融教育は家庭というのが一般的で、日本では子供の前ではお金の話をしないというのが染み付いていることが背景にあります。しかし現在は社会構造が大きく変化しており「考え方を変えなくてはいけない局面を迎えています」と危惧します。年代別のNISA口座数の年代別人口に対する割合を計算すると、30%を超える30代が年代別ではトップとなっているなど、「若い世代に関心を持つ人が増え、投資について考える機会が増えたのは、国内の変化の一歩目」と明るい要素を紹介しました。
山道支店長は、「教育の現場でも金融教育が積極的に進められるようになり、金融機関の役割への期待が大きくなっているのを実感しています」と語ります。農林中金は農業と金融の両面に関わる金融機関であることが特徴であり、これを活かして授業内容を構成してきました。将来の資産形成に興味や関心を持てるように、投資の分野にもかなり踏み込んでいます。「前例がないこともあり授業内容は、いかに小学生に分かりやすい授業にするかという部分でも悩みました。さまざまなプロフェッショナルの皆様との連携で授業を進めました」と振り返ります。このような取り組みを今後も継続したいと考えており、3年間の学びを、今後より良いものに発展したい考えです。
片山学園初等科のカリキュラムポリシーである「20年後の社会を見すえて。」「もっとできる。きっとできる。」「とらわれず、柔軟に、挑戦的に。」を実践することを念頭に置いて進められてきた「Agrication&Fincationプロジェクト〜目指すのは、人つくり。〜」プロジェクトは、「投資」の授業を終えひと区切りを迎えました。今後さらに金融教育の重要性が大きくなることが予想されます。農林中央金庫の金融仲介機能、ひいては社会的存在意義は、ますます注目されることになりそうです。