農業法人前山(富山県黒部市)
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黒部市の中山間地域に位置する前沢地区は、かつてそれぞれの家庭が兼業農家として米づくりをしていました。しかし担い手の高齢化で耕作をやめる人が増えたことで集落営農組織を経た農業法人が農地を受け入れ、地域を守っています。法人運営は世代交代も行われ、現在は常時雇用の4人を中心に農業が行なわれています。農林中央金庫富山支店とJAくろべによる「担い手コンサルティング」も受けながら、地域を次世代へつなぐ基盤整備が始まっています。
農業法人前山のある黒部市前沢地区は、国道8号線と北陸新幹線の間に位置する中山間地で、圃場は高畦、小区画、変形といった作業効率の悪い特性を持っています。耕作放棄地や遊休田が増えるなか「いずれは若い方に入ってもらい、農地と地域を守ってほしいと考えてきました」と、組合長の朝倉実さんは話します。
常時雇用の専従者として白羽の矢を立てたのは、現在、同組織の理事を務める村井斉昭さん。前沢地区出身で、JAくろべで営農指導員として働いていました。「いずれは自分も地元で農業がしたい」という考えからJAくろべを退組し、黒部市内の農業法人で経験を積んでいる最中でした。そしてもう一人の専従者は、副組合長の中谷翔太さん。中谷さんは入善町出身で、結婚を機に黒部市に移住しました。農業法人で働いていたことが、専従者になるきっかけになりました。
こうして2020年(令和2年)に組織は世代交代を遂げます。最優先課題は、彼らの暮らしを守ること。生産性の高いものを作って利益を生み出し、専従者の収入を確保することが喫緊の課題となりました。
「私たちの役割は、農業者の収益を上げることです」と話すのは、農林中央金庫富山支店北陸農業金融センター班の橋場英史さん、土田隼嗣さん、JAくろべ金融共済部融資課の岩上貴さんです。農業法人前山に、担い手コンサルティングの声かけをしたのも両者でした。
農林中央金庫では、金融事業の知見を活かした収支の分析やヒアリングによって農業者の課題を可視化し、各JAと協力してさまざまな提案を行なっています。富山支店では当事業をスタートして4年目。今回はJAくろべと連携して進められました。担い手にとって普段から馴染みのあるJAくろべが介在することで、ヒアリングや課題の洗い出し、解決策の検討がスムーズに行える利点もありました。橋場さんと土田さんは「日本の農業を持続させるためには、農業経営の安定と成長、所得向上が欠かせません。当事業では、実態に応じたさまざまなスキームを作れます」と言います。例えば補助金を使うにしても、農業者は日々の仕事に追われているため補助金を全て把握することはできません。「そこを事業でサポートし、経営の安定につなげられます」と、担い手コンサルティングの有効性を語ります。
若い世代のいる農業法人が少ない中で、世代交代ができていること、耕作放棄地の解消を図り規模を拡大していることが、農業法人 前山が担い手コンサルティングの対象に選定された大きな理由でした。周年栽培で多品目の作物に挑戦したり加工品を作ったりしながら、利益率を高める策を探っている前向きな経営方針や、経営規模の拡大や安定化を図り、将来的には後継者を育成したいというビジョンも選定を後押ししました。
アクションが考えられた中で、Jクレジットによる収益向上を図ることになりました。 JAくろべの岩上さんも「導入はメリットが大きい」と話します。村井理事や中谷副組合長も、Jクレジットの講習会に参加して取得や売買に魅力を感じていましたが、通常の農作業のほかに手続きや認証取得作業に時間を取られることから、手を付けるのが後回しになっていたのです。「Jクレジットのような環境負荷軽減やSDGsにつながる活動を、農業法人として取り入れなくては生き残れないと考えていました」と村井理事。事業内で、手続きや認証取得作業のサポートを受けることができました。
農山漁村振興交付金を活用し「黒部ファーストペンギンプロジェクト」という名で黒部市布施山地域と前沢地区の活性化を目的とした実証的な取り組みも行なっています。耕作放棄地にひまわりを植え、景観作りで賑わいを生み出しているのです。栽培した作物の販路や使い道も拡大しており、サツマイモの地元菓子店への納入、蕎麦打ち教室、イベント出店も実施しました。JAくろべを通して、黒部市内の小中学校の給食に食材を使ってもらうなど、地域との接点もより濃くなっています。活動は頻繁に更新されるインスタグラム(@:nou_maeyama)でも発信されています。
スマート農業の観点では「地域の特性を考えて、機械化よりも省力化を優先させているところです」と中谷副組合長。水稲栽培にドローンを取り入れているものの、中山間地という地形や圃場区画の観点から、作業を楽にすることを優先しています。今後は、多品目栽培を続けながらも、土地に合うものや利益につながるものを見つけるフェーズへと進んでいきます。
中谷副組合長は「地域を守るには、攻めることも必要です。新しいことにチャレンジしながら基盤整備しているところで、いずれ次の世代に継承していきたいです」と語ります。村井理事も「自分たちのような若い世代がいることで、繁忙期に世代の近い人がアルバイトで参加してくれるなど輪が広がり、前沢地区以外の人も手伝いに来てくれます。人のつながりがきっかけとなり広がっていくことはたくさんあります」と続けます。
持続可能な農業は、まずは農業生産者に利益をもたらすのが最優先で、そのためには担い手のさまざまな課題を解決することが重要です。担い手コンサルティングにより、課題解決の糸口を見つけ出すことが、農業者、日本の農業の明るい未来につながっていきます。