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サポーター派遣プログラムを、能登半島地震からの復興の一助にする
2025/2/17

サポーター派遣プログラムを、能登半島地震からの復興の一助にする

石川県漁業協同組合、いしかわ四季のさかなPR推進協議会(石川県金沢市)

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石川県は能登から加賀にかけて海岸線が長く、一年を通して豊富な水産物が水揚げされる全国的にみても漁業の盛んな地域です。石川県漁業協同組合では、漁業者の高齢化や担い手不足、地元での消費量の低下、漁獲量の減少など多くの課題に直面しながら、県内で水揚げされる水産物のブランド化に取り組んできました。2022年には「いしかわ四季のさかなPR推進協議会」を立ち上げ、石川県や地元水産業関係者、クリエーターらとパートナーシップを結んでブランディング戦略を推進しています。2024年に発生した能登半島地震による漁港の隆起や水揚げ量の減少といった深刻な課題も残るなか、若手職員が中心となり地元の水産業を盛り上げるための策を練っています。震災からの復興を目指す中で、農林中央金庫の「サポーター派遣プログラム」を活用した取り組みの様子をご紹介します。

トップブランドの創出、SNSを使った鮮度の高い情報発信を両輪で推進

 「いしかわ四季のさかなPR推進協議会」は、石川県の水産物の強靭なバリューチェーンの構築を目指しています。地元の人や国内外の観光客に県産水産物の魅力を知ってもらうため、最初に着手したのは一点突破のトップブランド作りでした。石川県漁業協同組合の青山邦洋常務理事は「石川県にも加能ガニ(県産ズワイガニ/オス)や天然能登寒ぶり(県産寒ぶり)が水揚げされますが、福井県の越前ガニ、富山県のひみ寒ぶりに比べると、知名度、市場での取引価格面も低かったのが正直なところです」と話します。 そこで加能ガニや天然能登寒ぶりに、誰もが「幻」と思うほどの厳しい基準を設け、トップブランドの立ち上げに踏み切りました。その結果、競りで高額落札され、マスコミを通して知名度が一気にアップしたのです。さらに各種イベントへの参加、SNSを使った鮮度の高い情報発信によって、石川県産水産物に対する注目度は県内外でアップし、市場での取引価格の底上げにもつながっています。

 そして今、協議会が取り組んでいるのが、ポータルサイトの開設です。既にホームページを使った情報発信をしていましたが、消費者目線にすることを目的に有識者の意見を聞くことにしました。そこで利用したのが、農林中央金庫の「サポーター派遣プログラム」です。このプログラムは、課題や悩みを抱えている漁業者や漁協に対して外部専門家を派遣し、解決に向けてサポートを行うプログラムです。東日本信用漁業協同組合連合会と農林中央金庫の各拠点は、その伴走支援にあたっています。石川県漁業協同組合の油谷安弘市場長は「ポータルサイトは、魚のテーマパークにしたいと思っています。若い職員が主体的にやってくれており、口は出さず任せることにしました」と語ります。水揚げ情報や魚の生態、どこに行けば買ったり食べたりできるのかまで分かるサイトを構築し、バリューチェーン全体の情報を網羅することで、ポータルサイトとしての位置付けを強固なものにしようとしています。

> ポータルサイトはこちら: https://oishikawa.jp/

課題解決のための、専門家派遣プログラムを提案

 農林中央金庫の「サポーター派遣プログラム」の活用は、普段から石川県漁業協同組合との接点を持つ農林中央金庫富山支店と東日本信用漁業協同組合連合会が、多くの情報を共有する中で、協議会がポータルサイトの開設を検討していることを知り、プログラムの利用を提案しました。最適な外部専門家として選ばれたのは、東日本大震災発生後に宮城県石巻市で地域漁業の復興に携わり、その後も国内各地で漁業活性化の取り組みを重ねている一般社団法人フィッシャーマン・ジャパンのCo-founderでLINEヤフー株式会社「サストモ」の統括編集長を務める長谷川琢也さんです。長谷川さんは能登半島地震前にも、輪島市への派遣プログラムに参加するなど石川県との接点がありました。

「石川県の漁業全体を強くしていくために、これまでの協議会の活動を後方支援したいと考えています。地域のブランディング化はフィッシャーマン・ジャパンの活動を、ポータルサイトはLINEヤフーのコミュニケーションツールを活かした視点から意見を伝えたいと思っており、ユーザーが求めることと現場の考えの橋渡し役になれれば」と話します。ポータルサイトの存在意義が薄れてきている時代ではあるものの、本プロジェクトが、石川県の魚のブランディングや漁協と漁師の連携のさらなる強化、そして県内外の関係人口の一層の拡大のための起爆剤になり、食だけでなく、観光や産業なども巻き込む大きな渦にしていければという考えが長谷川さんにはあります。同協議会メンバーの活動の様子を目にし「県漁協の職員さんが各地の漁港に行き、地域の漁師が置いてけぼりにならないように現場で情報を吸い上げている姿が素晴らしい。地元の人たちが腹を決めて楽しみながらやっている取り組み」と協議会の活動を評価します。長谷川さんは、本プロジェクトを、水産業だけでなく、石川県の復興や価値の底上げにつながる活動だととらえています。

水産業の維持・発展のために、農林中央金庫だからできる支援を実施

 東日本信用漁業協同組合連合会の石川統括支店長の江村博和さんは「能登半島地震以前から、農林中央金庫富山支店主催北陸食農ネットワーク会議などを通じて、ビジネスマッチングに繋がる情報を石川県漁協に提供してきました。『サポーター派遣プログラム』活用に至ったのも、会議などを通じて様々な情報交換をしてきたからです」と、これまでの活動の成果が同事業につながっていることを強調します。信漁連では過去にもプログラムを活用して長谷川さんを招聘し、担い手支援についての座談会を能登で開いた経験もあり、長谷川さんからも協力したいという声が届いていました。「PRの舵取りにご紹介したいと石川県漁協にお伝えしました」と江村支店長は話します。

 農林中央金庫富山支店の宮田拓哉さんも、ポータルサイト開設の打ち合わせに毎回参加し、長谷川さんと協議会の日程調整など細かな業務を担っています。宮田さんは能登半島地震発生後に輪島市に足を運び、被災地の現状を目の当たりにし「自分が今できることは何か、できることをいち早く行わなければいけないと強く感じました」と語ります。富山支店にとって「サポーター派遣プログラム」の提案・活用は初の試みでしたが、プログラムを通して支援に関わったことで、宮田さん自身も農林中央金庫の金融仲介機能について改めて考える機会にもなりました。「第一次産業のメインバンクだからできる支援です。現場の声を聞き、サポートできるのが自分たちの強みだと実感しました」と話します。

 能登半島地震の復興の一助として、農林中央金庫の「サポーター派遣プログラム」が活用されています。持続可能な水産業の実現に向け、石川県漁業協同組合といしかわ四季のさかなPR推進協議会の挑戦は、まだ始まったばかりです。

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