片山学園初等科
関連するSDGs
片山学園初等科は富山県内唯一の私立小学校。児童が将来社会に出たときに、自分の足で歩く力を育てることを教育の柱としています。20年後に必要な力を身につけさせたいという思いから、学習指導要領に沿った授業を行いながらも、特色ある教育を展開してきました。そのひとつが社会に出るうえで重要な学びとなる金融教育で、4年次から6年次にかけて「Agrication&Fincationプロジェクト~目指すのは、人つくり。~」と名付けられた金融と食農教育を融合させた授業が行われます。3月には5年生24人に対し、食品メーカーの『味の素』と投資会社『農林中金バリューインベストメンツ(NVIC)』が連携して特別授業が開かれました。
味の素の授業は、飯村新人氏が冒頭で「あなたは、あなたの食べたものでできている」と生徒たちに語りかけ、食べものと体との関係を解説。授業のなかでは、おいしさの5つの感覚や、味の素が開発した「うま味調味料」の歴史や特徴などが紹介されました。小瓶入りのうま味調味料を使って、薄味の味噌汁に入れる前後の味を飲み比べる体験も行われ、塩を使わなくても料理がおいしくなることや、「umami」が世界共通語であることも伝えられました。さらに五大栄養素やバランスのよい食事の重要性、トップアスリートの栄養サポート、だしの種類の紹介などを通して、児童は健康な体づくりや食の楽しさを実感しました。
NVICの授業は動画視聴から始まり、児童たちは物語の世界に引き込まれました。その後、中田圭亮氏が「お金はありがとうのしるし」であることを、説明とワークを通して分かりやすく伝えていきました。ワークでは、お金や時間の使い方を「今の自分のため」と「将来のため」に分けたり、「好き」と「得意」を組み合わせて「ありがとう」をもらう方法を考えたりする時間が設けられました。また、味の素の飯村氏が自らのことを語り、どのように「ありがとう」を受け取っているかを紹介する場面もありました。授業の最後には、家族がどのようにして「ありがとう」をもらって自分たちを支えているのか聞いてくる宿題が出され、学びを家庭につなげる工夫もされていました。
授業を振り返り、有識者が意見を交わしました。
●出席者
片山学園初等科校長 原本幸一氏
味の素株式会社会長 藤江太郎氏
味の素株式会社 清水慶子氏
味の素株式会社 飯村新人氏
農林中金バリューインベストメンツ株式会社 奥野一成氏
農林中金バリューインベストメンツ株式会社 中田圭亮氏
農林中金富山支店長 斉藤真二氏
農林中金富山支店 宗田友輔氏
原本校長は、味の素が「食農」、NVICが「金融」を担当したことで「まさにA&Fが一体化した授業でした」と語りました。味の素による五感を使った体験型の授業は、児童が強い関心を示し、積極的に取り組む様子が見られたといいます。一方、NVICの授業は、中田氏の話し方によって児童の興味を引きつける工夫がされていた点を評価しました。また金融の授業の中で、味の素の飯村氏が自らの仕事への思いや、社会から感謝される経験について語ったことも印象的だったといいます。「これまでのA&Fの授業では『お金がどのように得られるのか』という視点が不足していましたが、『社会に貢献した結果として報酬が得られる』という考え方が示されたことは非常に意義深いです」と述べました。今回の授業は、学校だけでは得られない社会への理解につながる貴重な機会だったと振り返りました。
味の素は2006年から学校への出前授業を行っており、これまでに約18万人の子どもたちに授業を届けてきました。授業では、小学5年生の家庭科の内容と関連させながら、だしやうま味、栄養バランスの大切さについて伝えています。清水氏は「金融教育とのコラボレーションは今回が初めてでしたが、『お金はありがとうのしるし』という考え方を知り、食を通して社会に価値を届ける仕事の意味を改めて実感しました」と話します。また、授業を担当した飯村氏は、うま味や栄養について学ぶなかで、子どもたちが驚いたり興味を示したりする様子を見て、学びがしっかり伝わっていると感じたといいます。さらに「私自身も小学生の子どもを持つ親として、今回の授業が家庭で食や健康について話すきっかけになればうれしいです」と語りました。
農林中金富山支店の斎藤支店長は、A&Fプロジェクトが学校と企業の連携によって発展してきた取り組みであることを説明しました。当初は4社の協力でのスタートでしたが、現在では参加する企業が増え、講座数も大きく広がっているといいます。参加した企業が授業の意義を実感し、翌年以降も主体的に関わるようになっている点が特徴といいます。斎藤支店長は「今回の授業は、食と金融を組み合わせた、通常のA&F授業をさらに充実させる“ボーナスタイム”のような価値がありました」と評価しました。また、こうした取り組みは農林中金が大切にしている「食と暮らしへの貢献」にもつながるものだと説明し、授業で学んだ内容が子どもから家庭へ、そして地域へと広がっていくことを今後の目標として掲げました。
NVICの奥野氏は、今回の授業が原本校長と中田氏との信頼関係によって実現したことを紹介しました。NVICの教材だけでなく、もっと面白く、子どもたちが実感を持って学べる授業にできるはずだと考え、食育や栄養リテラシーに約20年も取り組む味の素に協力を依頼。結果として、コラボ授業が実現したことに感謝の意を示しました。また自身が子どもの頃にはお金の本当の意味を学ぶ機会がなかったことから、子どもたちに正しいお金の価値を伝える教育の必要性を強く感じており「お金はありがとうのしるし」という考えの普及に積極的で、社会に貢献した結果として得られるものだという理解を、できるだけ早い段階から伝えることが大切だといいます。「教育は長期的に取り組むものだからこそ、学校だけでなく、農協などのコミュニティも含め、さまざまな場でこの考え方を広げていきたいです」と意気込みを語りました。
NVICの中田氏は、金融教育はテキスト中心のキャリア教育だけでは子どもたちに実感が生まれにくいと指摘します。しかし今回は、授業の中で味の素の飯村氏の語りがあったことで、「子どもたちの想像力が広がり、学びに手触り感が生まれることを感じ取れました」と感謝を述べました。小学生向け教材「ありがとうのしるし」では、家族へのインタビューを宿題にして、家庭の中で仕事やお金の意味について会話が生まれることを大切にしています。子どもが家族の仕事を理解し、社会への貢献を知ることで、親子のコミュニケーションが深まり、働くことへの前向きな理解につながると考えているからです。また中田氏は、今回の授業の実現にあたり、味の素の藤江会長への感謝も述べました。藤江会長が登壇した京都大学での講演を聞いた際に「自分のやりたいことと会社の仕事の中間地点を見つけたとき、人は輝ける」という言葉に共感し、子どもたちへの教育への思いを改めて強くしたといいます。こうした思いから、小学生にも実感を持って学べる授業を実現したいと考え、食育や栄養教育に長く続けてきた味の素との連携に強い熱意を持って取り組んできたことも明かしました。
味の素の藤江会長も、NVICの「お金はありがとうのしるし」という考え方に強く共感していると述べました。人や社会に価値を提供すればするほど感謝が生まれ、それが結果としてお金や幸せにつながるという循環は、味の素の理念とも共通しているといいます。また、食と金融の連携は非常に意義のあることで、食のうま味にもある「相乗効果」のように、単独では生まれない価値を生み出す可能性があると指摘しました。「今後は信頼関係を深めながらさまざまな形で『進化』『深化』『新化』『真価』などの“しんか”を重ね、子どもたちへのよりよい教育活動につなげていきたい」と意欲をみせました。
今回のコラボ授業は「食」「仕事」「社会」「お金」のつながりを児童が実感できる有意義な時間であったといえます。お金を単なる経済的な道具としてではなく、社会に価値を生み出した結果として得られる「ありがとうのしるし」として伝える教育は、子どもたちが将来、社会で主体的に生きていくための重要な基盤となることが期待されます。