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20年後を見据えた、産学官金プロジェクトはじまる
2022/12/19

20年後を見据えた、産学官金プロジェクトはじまる

片山学園初等科(富山県射水市)

関連するSDGs

 2019年に開校した片山学園初等科は「20年後を見据えた教育」をカリキュラムポリシーのひとつに掲げています。国際化や日本の人口減少が進む時代に、子どもたちに目標に向かってチャレンジし、活躍できる人材になってほしいという考えがあるからです。日本で全世代の金融リテラシー向上が課題となっている中で、22年5月より同校の4年生32人が、農業と金融を融合させた学びをスタートさせました。パートナーシップや産学官金連携の重要性が叫ばれる今、片山学園初等科では先進的なプロジェクトが実施されています。

小学生が、農業と金融のつながりを学ぶ

 片山学園初等科は、学習指導要領に沿った教育を実施しながら、独自性の高い学習に取り組んでいます。1年生から英語の授業を毎日実施しているのもそのためで、原本幸一校長は「私たち教員は、彼らが社会に出る20年後の社会に思いを馳せながら、授業の内容を考えています」と、常識や習慣にとらわれないカリキュラムへの想いを語ります。

 原本校長には、この先の社会を生きていく子どもたちに学ばせたいと考えていることがありました。金融教育です。貯金さえしていれば安心という時代は終わり、今は幅広い世代で金融リテラシーを身につけ実践することが求められています。GDPの成長がにぶり、円の価値が不安定な現状や、投資に適した金融商品を見つけたり金融トラブルを避けたりするためにも、小学校の段階でお金について学ぶ意義は十分にあると考えたのです。

農林水産業と金融仲介機能を生かす

 金融教育に取り組むにあたって、伴走役となったのがJAバンク富山の中田圭亮さんでした。今年度から高校の家庭科や公民で金融教育の厚みが増しているため、最初は片山学園中学校と高校の金融教育の役に立ちたいと考えていたそうです。しかし意外にも、中田さんの話に興味を持ったのは初等科の原本校長でした。

 話し合いを重ねる中で、農業を通して命の大切さを伝える授業も考えていきたいという原本校長の声を聞き「JAバンクの強みである農林水産業と金融仲介機能を生かした企画であれば、我々にできると思いました」と中田さん。そこで県や市、地元企業を巻き込みながら、農業と金融を一体的に進める「Agrication&Fincationプロジェクト〜目指すのは、人つくり。〜」を立案します。プロジェクトを形にする中で「行政はもちろん、富山県のトップを走っておられる企業には理由があるのを実感しました。地元の子どもたちの教育に貢献したいという考えに、積極的に賛同しアイデアまでいただけました」と振り返ります。農林中央金庫が主体となり、富山県やますのすし製造販売の「源」など、産学官金が連携して行う先進的なプロジェクトのキックオフミーティングは、富山のテレビや新聞でも大きく報道されました。

ブランド米「富富富」を育て、ますのすしを商品化

 2022年5月、県のブランド米「富富富」のバケツ栽培が始まりました。バケツ稲作りセットは、JAが1989年から配布を実施しており農業や食育体験手段として役立てられています。これまで富山県のバケツ栽培はコシヒカリに限られていましたが、栽培しやすく、肥料が少ないといった「富富富」の特徴がSDGs達成にもつながっていることから、県農林水産部にプロジェクトの趣旨を伝え、栽培使用の許可を得ました。育成指導は、高岡農林振興センターとJAいみず野から、営農のプロを招きました。指導の中では機械化以前の米作りの紹介も行われ「秋の収穫の喜びにつながったようです」と原本校長は言います。

 収穫したお米が富山名産「ますのすし」になるのも大きな経験でした。源の佐々木浩晃取締役は「郷土料理を後世に残すことは私たちのミッションです。実際に工場や企業活動を見てもらうことで、食品を作るうえでのこだわりや手間ひまを感じる機会を作らせていただきました。ますのすしの手作り体験も喜んでいただけました。このような素晴らしい取り組みを継続していけたらうれしいです」と話します。「源」の提案で、児童たちの絵をパッケージにした商品を開発することになり、児童が自分の描いた絵について発表するプレゼンテーション大会も開かれました。秋には富山県の食イベントへの参加、東京にある富山県のアンテナショップでの販売も実施されました。

先進的な教育で、未来を生き抜く人をつくる

 児童はプロジェクトを通し、農作物が商品になり、利益が生まれる仕組みを学びました。原本校長は「5年次は企業側の考え、6年次は投資家の目線やリスクについての考えというように、学びの質を引き上げていきたいです。今回と同じレベルの経験を継続できるかが課題で、その年ごとに内容を改めながら柔軟に実施していくことも大切にしたいです」と語ります。
 近年はコロナウイルスの感染拡大、ウクライナ情勢など、想像をはるかに超える事態が発生し、急激な経済情勢の変化は景気に暗い影を落としています。子どもたちが活躍する未来にはSociety5.0やAIが活躍すると言われていますが、実際の社会を予想することは容易ではありません。片山学園初等科では、子どもの力を伸ばす最高の環境の中で、先進的な教育と未来の社会を生き抜く人づくりを続けていきます。

▶ vol.2「金融教育は、子どもたちの未来への種まき」
▶ vol.3「体験型授業が、児童の好奇心を広げる」

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